異世界[恋愛]
あなたの隣は最初から、私の場所じゃなかったみたいなので。
三年間尽くした婚約者に「君は妹ほど可愛くないね」と言われた夜、シルヴィアは涙ではなく婚約解消届に手を伸ばした。
前の人生でも似たような男に時間を費やして後悔した記憶がある。 同じ過ちは二度と繰り返さない。
実家にも頼らず、自分の蓄えだけで隣国の小さな町に渡り、宿屋を一軒開いた。 仕入れも仕込みも帳簿も接客も全部一人。 体はきついが、この疲れは誰かの家のための消耗ではない。
客足がまばらな宿に、ある日二人連れの旅人が泊まった。 無口で無愛想な青年と、隙のない従者。 姓は名乗らない。身元欄は空白。
けれどその青年は、シルヴィアの料理を一口食べた瞬間だけ表情を変えた。 一泊のはずが連泊になり、連泊がいつの間にか長期滞在になった。
彼が何者なのかは知らない。 詮索もしない。 自分だって身元を隠している側の人間だから。
一方、シルヴィアがいなくなった元婚約者の家では、社交の歯車が一つずつ狂い始めていた。 招待状の敬称を間違え、贈答品が重複し、名のある家が距離を置いていく。 その崩壊を、シルヴィアはもう振り返らない。
閉店後の食堂で、名前だけを交わした夜があった。 指先が触れて、同時に手を引いた沈黙があった。 言葉にしないまま伝わる何かが、少しずつ積もっていった。
けれど旅人には、旅の終わりがある。
彼が発つ朝、銀の鈴が鳴る。 そのとき彼女は何を思い、彼は何を選ぶのか。
異世界転生 / 女主人公 / 身分差 / 西洋風 / 恋愛 / ざまぁ / 婚約破棄 / 王子 / 宿屋 / すれ違い
全10話完結
2026/04/15 12:11更新
33,380字 (3338字/話) 15%
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最終取得日時:2026/04/18 12:05
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