異世界[恋愛]

白衣の葬送

 結婚5年目、伯爵夫人ヘレンの心は、確かに死んでいた。

 夫は若き侯爵令嬢を屋敷に連れ込み、私の前で堂々と恋文を読む。義母は「我慢が妻の務め」と微笑み、社交界は「お若いのだから」と口を揃える。3年半、私の心臓は、夫に対しては、もう動いていなかった。

 ある朝、私は教会へ向かった。
 《白衣の葬送》――数世紀に一度しか行われぬ、心の死を証明する古き儀礼。申請者の名も、申請の事実も、夫君に告げる必要はない。

 屋敷を訪れた霊視官は、若き枢機卿レナルド・ド・サン=クレール。14年前、亡き祖父の側に仕えていた人物だった。彼の手のひらが、私の胸に翳される。

 「夫君に対しては、確かに、死んでおられます」

 夫が震える声で問う。「では、どうしろと――」
 霊視官は、わずかも乱れぬ声で答えた。
 
 「死者には、離縁が要りません」

 夫の同意は、要らない。教会の宣言だけで、私の3年半は終わる。
 白衣を纏う3日が明けた朝、私は門前で太陽を、まっすぐに見上げた――。

ハッピーエンド / ヒストリカル / 婚姻解消 / 切ない / 協会 / 観察愛
短編 2026/05/03 19:10更新
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最終取得日時:2026/08/20 12:11
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