婚約破棄されたので“婚約破棄保険”を申請したら、王家が破産しかけています
卒業記念舞踏会の夜。
王太子レオニス殿下は、会場中に響き渡る声で高らかに宣言した。
「セシリア! お前との婚約を破棄する!」
男爵令嬢に熱を上げ、私が彼女をいじめていたと言い放って。
百九十三人の貴族が見守る中での、公開処刑のような宣言だった。
——ええ、承知いたしました。
でも殿下、ひとつよろしいですか。
私、三年前から保険に入っているんです。
侯爵令嬢セシリア・アークライトは、特別な魔法も天才的な頭脳も持たない、ごく普通の令嬢だ。
ただ、極度の心配性で——契約・法律・保険制度に、異様なまでに詳しかった。
この貴族社会で生きていれば、婚約破棄など珍しくもない。
だから三年前、大商会が始めた新事業に迷わず加入した。
貴族向け破談保険。フルプランで、最上位等級で。
婚約破棄保険、名誉毀損保険、冤罪訴訟保険、国外追放保険、精神的苦痛補償特約——全部込みで。
婚約破棄宣言の数分後、会場の扉が開く。
黒スーツの査定員集団が整然と入場し、査定が始まった。
「公開名誉毀損——認定」
「虚偽告発疑惑——認定に格上げ」
「"王家都合による一方的かつ公開形式での婚約破棄"——最大補償プラン、適用です」
泣かない。怒鳴らない。
ただ淡々と、書類を出すだけ。
それだけで、王国予算級の賠償請求が王家に叩きつけられた。
「撤回する……! 婚約破棄はなしだ!」
「殿下、百九十三名の証人がいらっしゃいます。撤回の余地はございません」
王家が、青ざめる。
これは復讐じゃない。
事故に備えていただけだ——万が一がありますので。
その後、保険会社の敏腕幹部・アルヴィンに顧問として招かれたセシリアは、次々と新商品を大ヒットさせていく。
そして彼が静かに告げた言葉は、保険の申請書ではなく、少し赤くなった耳とともに差し出された。
「次は……人生設計も、ご一緒しませんか」
心配性令嬢と、冷静な仕事人。
備えていなかった未来だけが、保険適用外だった。
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