異世界[恋愛]

「銅銭の数を数えるなど誰でもできる」と仰った王太子は、王国通貨の合金比率をご存知ですの?

カウンタ伯爵令嬢メリザンドの家は、代々「通貨計算師《つうかけいさんし》」——通称、算盤師《そろばんし》——を務める。銅銭・銀貨・金貨の重量校正、合金比率の管理、流通速度の計算、為替の予測——王国の貨幣経済の心臓を、一族が静かに担ってきた。
婚約者の王太子は、メリザンドの仕事を理解しなかった。
「銅銭の数を数えるなど、誰でもできる。算盤を弾くのは商人の仕事だ」
左様でございますか。メリザンドはそう答えて、王宮の造幣局から自家の標準分銅一式と合金配合書を全て持ち帰り、家業を畳んで自由都市レーゲンへ移った。
半年後、王国の貨幣が異変を起こす。銅銭は重さがバラバラ、銀貨は鉛が混じり、金貨は微かに軽くなる。隣国エルドラの両替商が「貴国の貨幣は信頼できぬ」と取引を拒む。為替が暴落し、交易が停止する。誰も気づかない——なぜなら、貨幣の真実を計る者が、彼女と共に去ったからだ。
「貨幣は、誰が作ったかではなく、誰が校正したかを覚えています」

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短編 2026/05/16 19:00更新
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最終取得日時:2026/09/25 12:12
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