ハイファンタジー[ファンタジー]

私のドレスを切り刻んだお母様、それ国を守る結界だったので伯爵家ごと詰みです

白い布に見えたでしょう。
けれどそれは、ただのドレスではありませんでした。

一本の糸に祈りを込め、
一針ごとに願いを縫い込み、
幾つもの夜を削って紡いだ、見えない城壁でした。

誰も気づかなかったのです。

風を防ぐ壁は見えるのに、
災いを防ぐ壁は見えないから。

「地味ね」

その一言とともに振り下ろされた鋏。

しゃり、と鳴った音は布ではなく、
信頼を断ち切る音でした。

あなたは笑いました。

どうせ娘の趣味だと。
どうせ代わりがあるのだと。
どうせ壊れても困らないのだと。

けれど世の中には、
失ってからしか価値が分からないものがあります。

空気。
健康。
平和。

そして、守られていた日常。

花が枯れ、
人が病み、
屋敷に不幸が忍び寄る。

それでもなお、

「どうしてこんなことに」

と嘆くのでしょう。

答えは簡単です。

誰かが毎日、黙って支えていたから。

褒められなくても。
感謝されなくても。
存在そのものを当たり前だと思われても。

その人がいたから。

結界とは魔法だけではありません。

家族を守る人。
職場を支える人。
誰にも見えない場所で働く人。

そんな人たちの積み重ねです。

鋏は簡単に振り下ろせます。

けれど、一度切れた信頼は戻らない。

一度壊れた結界は戻らない。

だから私は去りました。

怒りではなく。
復讐でもなく。

ただ、もう守る理由がなくなったから。

やがて人々は知るのです。

失った後で。

あの地味なドレスが、
あの無口な娘が、
あの当たり前の日々が、

どれほど尊いものだったのかを。

朝日が昇る。

新しい結界が光を帯びる。

今度は誰にも壊されない場所で。

私は静かに針を持つ。

守るべきものを知る人々のために。

そして胸を張って言うのです。

「これはドレスではありません」

「未来そのものなのです」と。

未設定
全21話完結 2026/08/21 21:09更新
105,708字 (5033.7字/話) 52%
日間P
-
総合P
1,028
ブクマ
58
平均評価
7.54
感想数
5
レビュー
0
評価頻度
208.62%
評価P
912
評価者数
121
週間読者
-
日間イン
3回
ベスト
205位
最終取得日時:2026/08/25 12:10
※googleにインデックスされているページのみが対象です