無表情な旦那様の秘密の日記を読んでしまった
伯爵令嬢のフィーネは、ひょんなことから筆頭侯爵家の嫡男であるアロイスと結婚することになった。
だが、美麗な顔立ちをしていながらも、常に自分の前では無表情なアロイスに、フィーネはこの結婚はアロイスにとって本意ではなかったのだろうなと薄々感じていた。
そんなある日、フィーネはアロイスが書いたと思われる日記を偶然読んでしまう。
そこにはこう書かれていた――。
10月10日
今日は遂に、彼女が俺の妻としてこの家にやって来た。
あまりの興奮に、昨日の夜はろくに眠れなかった……!
嗚呼、でも、久しぶりに会う彼女は、やはり女神のように美しく、可憐だったな……。
この国では金髪ばかりが持て囃されているが、俺は艶やかな黒髪こそが至高だと思っている!
先日の夜会で彼女と会った瞬間、俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。
そこには俺の思い描いた、理想通りの女神がいたのだ――。
完全に一目惚れだった。
しかも二人で会話をしてみると、どうやら彼女は自己肯定感が低いタイプらしく、何かにつけて「私なんて」というワードを口にしていた。
そんなところも、俺の庇護欲をそそった――!!
「そんなことはないよ! 君はもっと、自分に自信を持っていいんだよ! 俺はこんなにも、君のことが大好きなんだからッ!」と喉元まで出かかったが、必死に堪えた。
家に帰るなり父さんに理想の女神に出逢った旨を告げ、彼女の実家に結婚の打診をしてもらった。
幸い俺の願いは叶い、彼女は俺の妻となってくれた。
よし!!
よしよしよし!!!!
嗚呼、神よ……!!
俺はあなたに、心から感謝します!!
両親も気を利かせ、夫婦水入らずで暮らせるようにと旅行に出掛けてくれた。
後は何とか両親が帰って来るまでに彼女に俺の想いを告げ、本当の夫婦になるだけ――!
……だが、果たして口下手な俺に、そんなことができるだろうか。
同じベッドで寝たら絶対緊張して挙動不審になってしまうから、寝室も別にしてしまったし……。
いや、弱気になってどうする俺!
俺は必ず、彼女に告白するんだ――!
だからもう少しだけ、どうか待っていてほしい。
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