ヒューマンドラマ[文芸]

誘い文句

「『入るな』か……ふふっ」

 夜、おれは町外れの古びたトンネルの前に立っていた。ネットで仕入れた情報によると、どうやらここは“出る”らしいのだ。
 人けはまったくなく、昼間ですら誰も通らないのかもしれない。まだ入り口だというのに、空気はじめじめと重く、どこか黴臭い。雨が降ったわけでもないのに、アスファルトにはところどころ水たまりができていた。
 照明は入り口近くに立つ外灯が一つだけ。その頼りない明かりが、壁にびっしりと書かれた落書きを薄く浮かび上がらせていた。

【入るな】
【危険】
【ここに近づくな】

 おれはスマートフォンのライトをつけ、壁を照らしながら、ゆっくりと足を踏み入れた。

未設定
短編 2025/06/02 11:00更新
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最終取得日時:2025/06/05 12:05
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